OP前のカイセシ。
兵学校を卒業して丸2年が経った。
カインは竜騎士になるべく日々、訓練を積み重ねている。
それ故、バロンを離れて山篭りなんていうのはザラな事であり、片思いしているセシルに会う機会はめっきり減ってしまった。
帰ってきても城には行かないことも多い。
カインはやっと慣れてきた鎧を着た己の身体を引き摺るようにして今日も半年振りにバロンに戻ってきた。
「カイン、戻ったか」
玄関先でカインを偶然見つけたのは父親のリチャードだった。
疲弊したカインを家の中まで引き摺るように迎え入れた。
「まだ若いから良いが、歳を取ったら長い時間篭る事も出来んしな…今が辛抱だ、カイン」
「わかってる…」
水の入ったコップを差し出すと、頭をかかえていたカインがそれを受け取って一気に飲み干した。
「そういえば、最近よくセシル君がうちにくるよ」
「セシルが?」
「ああ、”カイン君、お元気ですか?”って。最近セシル君と会ってないだろ?明日はゆっくり休んで、明後日にでも顔を出したらどうだ?
随分と心配してたみたいだからな」
そんなセシルの心配そうな顔が目に浮かぶが、それも学生時代の少し幼いセシルの顔だった。
それを思うと、自分の中のセシルはいつまでも子供で、純粋に笑っている顔しか浮かんでこない。古い記憶しかなかった。
それに比べて自分は鏡を覗き込むたびに長くなる両親譲りの金髪に、昔とはまるで違う体つき。たった数年で大人になってしまった自分。
鏡を見るまで気付かなかったのに、セシルの今の姿なんて想像がつかなかった。
カインは、とりあえず父親の言われたとおりに明後日セシルに会いに行くことにした。
逆に着慣れなくなった私服を半年振りに腕を通し、すっかり全快した身体でバロン城を目指す。
城内でも失礼のない格好で擦れ違う門番に敬礼をし、目的の部屋まで進んでいく。
扉の前で足を止め、ノックをする。
はい、と男にしては少し高い声が聞こえ、扉が開いた。
驚いた。
昔からずっと一緒だった幼馴染が、麗しい姿で目の前にいる。
カインはじっとこっちを見たままで固まっているセシルにやっと声を掛ける。
「……え、と…久し振りだな、セシル…」
「…あ…う、うん…」
歯切れの悪いセシルにカインは少しがっかりする。
歯切れが悪いだけならいいが、どうしても目を合わせようとしてくれない。
機嫌が悪いのかもしれないが、八つ当たりしてくるセシルではないのはカインが一番良く知っていた。
「…なんだか、カイン別人みたいだね…僕が前に見たときはもう少し背も低かったし、髪だってそんなに長くなかったし……」
「セシルこそ、髪伸ばしてるじゃないか」
「いや、僕は…そろそろ切ろうと思ってて……」
「切らなくても良いだろ?勿体ないな」
カインが目を細めてそういうと、セシルは少し考えてから「じゃあ、そうする」と小さく呟くように答えた。
「…親父から聞いた、俺のこと心配してくれてたって」
「だって…カインと会ってないから会いに行ったらいつもカインがいない時になっちゃって…でも、カインは竜騎士になるために頑張ってるから、一人でフラフラしてる僕って…なんだか情けないよね……」
「兵学校でて、すぐに自分の道を決められる奴なんてそうはいない。お前もゆっくり考えればいい」
カインが優しくそういうと、セシルは苦笑いしながら「ありがとう」と返した。
カインは、今日はいつもと違う気持ちでここにきた。
ずっと胸に秘めていた想い、セシルへの気持ちをここで打ち明けようと決心したのだ。
もちろんこれでこの先のセシルのと関係は180度変わってしまうだろう。
だが、長い間山に篭って訓練していても、考えることはセシルの事ばかり。
幼い頃にはじめて見た笑顔を守りたくて竜騎士になったのも一つの理由だった。
セシルは騎士、そして戦士としての才能には恵まれているが、その優しさ故に思い留まってしまうという欠点がある。
そんな甘い感情は戦場では必要ない。
だから教官にはいつもそこを指摘されていた。
それを改善できる筈もなく、卒業してしまった。
今でもこの先どうするのか迷っているセシルにまた悩みを増やしてしまうかもしれない。
そうなれば、自分のことはきっぱり嫌ってくれてもいいと言うつもりでもあった。
「…セシル」
「なに?」
緩やかにウェーブしているセシルの銀髪に手を伸ばし、そっと撫でる。
「…嫌なら、今日のことは忘れてくれて構わない」
もう、この愛しい気持ちを偽ることができない。
セシルが愛しくて、愛しくて……
「……セシル、お前が…好きだ」
カインが告白する。
セシルはカインの言葉を聞いて、目を逸らし、俯いた。
これにカインはセシルの戸惑いをすぐさま感じ取り、髪に触れていた手をそっと下ろした。
「…自分に嘘はつきたくなかった。だが…お前が迷惑なら、俺はお前の前から消える。ただ…伝えたかっただけなんだ」
セシルは答えない、ただ俯いてるだけだった。
だが、なにやらブツブツ言っているのが聴こえてきた。
「……の、…カ………」
「セシル?」
「……カインの馬鹿ッ!!」
カインに向かってセシルが半ば叫ぶようにそう怒鳴った。
「なんで…なんで先に言うんだよ!僕、僕だって…カインの事好きだったんだから!!家に行ってもカインいつもいないしっ……」
と、セシルははっとして口を噤んだ。
カインはセシルの怒涛のような攻撃にぽかんとしていたが、そこで気付く。
「じゃあ、お前が俺の家に来たのっていうのは……」
カインがそう言うと、セシルの顔が一気に赤くなって部屋の扉を閉めようとした。
だが、カインが扉の取っ手を掴み、セシルが押す方と逆に扉を押す。
「セシル!何してるんだ…!!」
「あーやだやだ!恥ずかしい事ばっかり言って!やっぱりカインなんか嫌いだっ!!」
「お前が嫌いでも俺はお前が好きだ!何度でも言ってやろうか!?俺はセシルが好きだ!愛してる!!」
「やめてよカイン!外まで聞こえたらどうするんだよっ!?」
「ここを今すぐ開けないとこのまま外に出てバロン中で叫んでやってもいいんだぜ!!」
「わー!!カインやめて!!」
ぐぐぐ、と力任せに扉を押したり押され返したりしていたが、セシルが根負けして扉を再び開いた。
カインは肩で息をしながらはぁ、と深いため息をついた。
「…カインの意地悪」
「何とでも言え…お前、随分と力が強くなったな…」
「成長したのはカインだけじゃないんだ、ってこと」
「確かにな……今夜はうちに来い」
「え?どうして?」
「たまには良いだろう」
「…そう、だね…じゃあ、僕陛下にその事言いに行くから、城門前で待っててくれるかい?」
「…解った、そうする」
やっと呼吸も整ったカインがセシルと共に階段を下りると、ばったりと出くわしてしまったのがローザだった。
ローザはカインとセシルに視線を向け、にっこりと微笑んだ。
今でもローザとは恋敵だ。この笑顔の裏で何を考えているかなんて解らない。
「カイン、久し振りね」
「…ああ」
「どこかへ出掛けるのかしら?」
「あ、うん。ちょっと…」
「ローザ」
セシルの言葉に割って入るようにカインがローザの名を呼ぶと、カインはセシルの肩をぐいっと抱き寄せた。
それに目を丸めたのはローザとセシルだった。
「…こういう事だ」
「カ、カイン!?急になにしてっ…!!」
「セシル、お前は俺を好きだと言ったな?」
「え、えぇ!?」
「どうなんだ、素直に言え」
ローザの目の前でなんて事を言い出すんだ、とセシルは再び顔を真っ赤にしたが、これ以上こんな恥ずかしい時間を引き延ばすわけにもいかず、セシルは小さく頷いた。
ローザはそんなセシルを見つめ、微かに目を細めた。
「…良かったわね、セシル。カインもおめでとう」
恋敵からのそんな祝福の言葉に、カインは眉をぴくりと動かした。
「でも、まだ私にもチャンスはあるのよね?これでカインの勝ちだなんて許せないわ」
「ロ、ローザ…?」
「うふふ、それじゃ二人とも、またね」
ローザはいつもの笑みを浮かべながら白魔道士訓練所のある部屋の扉を開いて中に入っていった。
これで勝利を確信した訳ではないが、カインは相変わらず侮れない女だと心の中で思った。
一方のローザは、小さく溜息をつきながらセシルにどうやってアプローチしようか模索し始めていた。
「(セシルも、あんな顔するのね…悔しいわ、このままじゃ引き下がれないわね…)」
ローザは再び溜息をついた。
「…僕、カインはローザの事が好きなんだと…」
「は?冗談じゃない…お前こそ、ローザが好きなんだとばかり思っていたけど」
「ローザは、どっちかっていえばお姉さんって感じだったし…」
年下なのに”お姉さん”か。とカインは何気なく思ったが、自分だって幼い頃はローザとセシルの”お兄さん”のようなものだった。
”お兄さん”から”恋人”に昇格したのは良いことなのだが。
「でも、カイン。人前ではああいう事もうしないでよ?」
「…何のことだ?」
「だ、だから!さっきローザの前で、した、ことを……」
ごにょごにょと語尾を小さくして俯いて赤くなった顔を隠すセシルの言葉を考えると、恐らく先ほどの肩を抱き寄せる行為の事らしい。
真っ赤になったセシルが可愛くて笑うのを堪えて肩を震わせるカイン。
もちろんそれに気付いたセシルは真っ赤になって怒り、カインの長くなった後ろ髪を少し強めに引っ張った。
「カイン笑わらないでよ!!」
「いや、我慢できなくて…くくっ…」
セシルが二度目の「カインなんて嫌い!」の叫びに機嫌を直そうとカインは何度も謝った。
「おぉセシル君、やっとカインに会えたみたいで良かったよ」
「リチャードさん、何度もお訪ねしてすいません…」
「気にしなくていいよ、カインが迷惑かけたみたいで逆にこっちが謝らなきゃならないんだ」
「いいえ、カインにはちゃんと後で謝礼を頂きますので大丈夫です」
セシルは人当たりのいい笑顔でそう言うと、リチャードは大声で笑い、「もちろんだとも!遠慮しないでなんでも言ってやってくれ!」と言っていた。
今後セシルに何を言われるか、心配になってきたカインであった。
片思い30のお題
『5.受け入れてくれる?』
2008.11.05 (c)rlrl.
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